フリーターの中には、社会保険と国民保険のどっちに加入したほうが得になるのか気になっている人も多いのではないでしょうか。
日本の保険制度では、成人をしている場合、すべての人は社会保険か国民保険のどちらかに加入することになります。加入条件や保険料の支払い方法など、異なる点がいくつかありますので、しっかりと認識しておく必要があります。
この記事では、社会保険と国民保険についてそれぞれ解説した上で、フリーターにとってどちらの方が得なのかを解説していきます。
この記事の目次
フリーターが知っておくべき社会保険とは
そもそも社会保険とは、どういった仕組みで成り立っているのか知らないというフリーターの人も少なくないのではないでしょうか?
社会保険とは、一定の条件を満たした日本国民が必ず加入しなければならない公的保険の総称であり、社会保険料という形でお金を納付することで各種社会保障サービスを受けられるようになっています。
まずは社会保険について理解を深めていきましょう。
正社員や一部のフリーターの加入が必須
社会保険の加入条件としてまず第一に挙げられるのが会社員であることです。
日本に所在するすべての法人は、社会保険への加入が原則義務付けられています。
社会保険への加入義務があるにもかかわらず社会保険に加入をしない会社は、事業が継続できないようになっているほど強制力がある制度です。
社会保険に加入している会社に正社員として就職する場合は、従業員も必ず社会保険に加入することになります。社会保険の適用事業所に就職する場合は、国民年金を選ぶ事はできません。
また、正社員でなくても社会保険に加入することになるケースがあります。
具体的には、以下のすべての条件を満たすフリーター(短時間労働者)の場合は、原則社会保険に加入します。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
- 学生でないこと
- 月の賃金が8.8万円を超える
- 従業員数が51人以上の会社に勤めている
分かりやすく言い換えると、一定の規模の会社で8.8万円以上を超えるほど長く働くフリーターの場合は、社会保険に加入することになります。
自分の働く期間に応じて社会保険に加入するか、国民保険に加入するかが変わってきますので、特にフリーターの人は社会保険の加入条件についてしっかりと認識しておきましょう。
参考:厚生労働省「社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について」
社会保険の種類
社会保険とは様々な意味を持つ言葉ですが、具体的に社会保険の中でも細分化すると以下のような種類に分けられます。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
このように、様々な「保険」と名のつくものを総称して社会保険と言っています。
なお、狭い意味で社会保険という言葉を捉えると、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3種類となります。
健康保険は、医療サービスを受ける際に窓口負担料が3割にまで軽減されますし、厚生年金の件で言えば、将来受け取る年金を国民年金以上にもらうことが可能になります。
社会保険はお金がたくさん取られるというイメージが先行してしまい、ネガティブな感情を持っている人も少なくありませんが、いざというときに充実した社会保障が受けられるというのは、安心して生活していくための土台になるとも言えます。
フリーターが知っておくべき国民保険とは
国民保険とは、社会保険の加入義務対象者でない人が加入する保険です。
言い換えれば、フリーランスや自営業、年金受給者などが加入を義務付けられている制度となります。
多くのフリーターは国民保険に加入しているとも考えられますので、今一度国民保険とはどういった制度なのか、加入対象者や保険料の支払い方について理解を深めておきましょう。
自営業者や農林水産業者が加入する保険
国民年金は、以下のような人に加入が義務付けられている保険制度です。
- フリーランス
- 一部のフリーター
- 自営業
- 無職
- 年金受給者
言い換えると、社会保険や他の医療保険制度に加入していない人全員が加入の対象者となります。フリーターであっても、月額8.8万円以下の収入であるなどの場合は、国民保険に加入することになります。
保険料を全額自分で支払う
国民保険は、保険料を世帯主が世帯の被保険者全員の分を支払うといった特徴があります。
収入や年齢などに応じて保険料を計算することになりますが、そもそも国民保険は市区町村によって運営されていますので、同じ条件であっても住む場所によって支払う保険料が異なります。
社会保険の場合は、健康保険料を勤め先の会社と従業員とで半分ずつ支払うといった特徴が見られますが、国民保険の場合はそもそも折半する勤め先がありませんので、自分で全額支払う必要があります。
後ほど詳しく社会保険と比較をしますが、保険料を折半できないことから、国民保険の方が支払うお金が多いという意味で損をすることがあるケースも考えられます。
社会保険と国民保険の違い
ここまで社会保険と国民保険のそれぞれの説明をしてきましたが、改めてそれらの保険制度の違いについて、以下の観点でまとめて解説します。
- 加入対象者
- 保険料の計算方法
- 扶養に対する対応
それぞれの違いをしっかり理解した上で、どちらが自分にとって得なのか考えるようにしてみてください。
加入対象者
社会保険と国民保険は、それぞれ加入対象者が以下のように異なります。
社会保険 | 国民保険 |
---|---|
以下の全てを満たすこと ・1週間の所定労働時間が20時間以上 ・毎月の賃金が8.8万円以上 ・2ヶ月を超える雇用の見込みがある ・学生でない ・従業員51人以上の会社で働いている | 社会保険や医療費補助制度を利用していない国民全員 (社会保険に加入していない人) |
社会保険には様々な条件を満たしていることで加入することになりますが、わかりやすく整理するのであれば、正社員は社会保険に原則加入すると理解しておけば問題ありません。
フリーターという観点でいうのであれば、一定規模の事業所で長期間に渡ってある程度のお金を稼ぐと、社会保険に加入することになります。
反対に、フリーターであっても、所定労働時間や毎月の賃金が一定水準を下回る場合は、国民保険に加入することになります。
そのため、フリーターが社会保険と国民保険のどちらに加入したいか強い希望がある場合は、自分が働く時間を調整する必要が出てくると言えます。
保険料の計算方法
社会保険と国民保険では、保険料の計算方法も大きく異なってきます。
社会保険においては、まず給料の平均額を標準報酬月額として定めて計算の基準にしていきます。また、社会保険料は健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料について、勤め先の企業と半分ずつ支払う形になる点が特徴です。
それぞれの計算方法としては以下の通りです。
- 健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率÷ 2
- 厚生年金保険料=標準報酬月額× 13.8% ÷ 2
- 介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率÷ 2
なお、社会保険料の標準報酬月額額には賞与が加算されます。
毎月の基本給が少なく賞与が多いような会社であっても、1月当たりの収入に平均されるということを認識しておいてください。
また、社会保険料の支払いは給料から天引きされる形で行われます。
自分で計算する必要がありませんが、どれくらい毎月社会保険料を支払っているのか知りたい場合は、給与明細を確認するようにしてください。
対して国民保険の計算方法は、世帯人数や収入、年齢によって変わってきます。
また、計算の基準となる金額も市区町村によって大きく変動してきますので、計算をしたい場合は自分が住んでいる市町村のホームページで確認することをおすすめします。
扶養に対する対応
先ほど少し触れましたが、社会保険と国民保険では扶養に対する対応も異なります。
社会保険では、被保険者となる自分のパートナーや親族、子供を扶養に入れることができます。扶養の人数に応じて、被保険者の健康保険料が変わる事はない点が特徴です。
ただし、扶養に入れるためには被扶養者が年間収入130万円未満であることや、戸籍上3親等以内であることなど複数の条件がありますので、注意してください。
一方、国民保険には扶養という概念がありません。
例えば夫婦どちらも自営業で子供が1人いるような家庭の場合、3人ともそれぞれが被保険者となり国民保険に加入することになり、保険料は一人一人計算する必要が出てきます。
フリーターは社会保険と国民保険どっちが得?
社会保険と国民保険には、それぞれ加入対象者や保険料の計算方法、扶養に対する対応など様々な観点で違いがあることを解説してきました。
それらをまとめ、結局のところフリーターは社会保険と国民保険のどちらに加入するのか得なのかについて解説していきます。
年収別シミュレーション
社会保険と国民保険の金額をそれぞれシミュレーションで算出し、まとめると以下の通りです。
<シミュレーションの前提条件>
- 独身
- 40歳未満
- 世田谷区在住
年収 | 社会保険(年額) | 国民保険(年額) |
---|---|---|
100万円 | 53,000円 | 68,000円 |
200万円 | 102,000円 | 168,000円 |
300万円 | 156,000円 | 248,000円 |
400万円 | 204,000円 | 333,000円 |
500万円 | 246,000円 | 425,000円 |
社会保険も国民保険も年収が上がるにつれて、支払う保険料が増えていきます。
また、比較して分かる通り、どの年収帯であっても基本的に国民保険の方が高くなることが分かります。
ただし、国民保険の場合は一定水準未満の所得だと減額措置を受けられることがあります。
年収が100万円台の場合は減額措置を認められれば、社会保険よりも保険料が低くなることもありますので認識しておきましょう。
これまでのシミュレーション結果から、基本的にフリーターにとって社会保険に加入する方が得だと言えます。
社会保険の任意継続で保険料を抑えられることも
もし会社員の人が退職によってフリーターになる場合、通常であれば社会保険から国民保険に切り替える必要があります。しかし、必ずしも国民保険に切り替えなければならないというわけではありません。
社会保険は一定条件を満たしていれば、退職してもその後2年間は今までの社会保険を継続できるといった任意継続制度が設けられています。任意継続制度を利用すれば、フリーターになったとしても2年間は社会保険に加入し続けられるのです。
ただし、任意継続で社会保険に加入する場合は、退職まで企業が折半してくれていた保険料を自分で支払わなければならなくなります。場合によっては国民保険に切り替えた方が保険料の負担が低くなることもありますので、注意してください。
もし任意継続するべきかどうか悩んだ場合は、自分が住んでいる市区町村の国民健康保険の窓口や、協会けんぽの窓口に相談してみることをおすすめします。
フリーターが社会保険と国民保険のどっちに入るかの判断軸
ここまでの解説を読んで、フリーターが社会保険と国民保険のどちらに入るのか迷った際は、以下のような判断軸を持っておくと良いでしょう。
- 正社員になりたいなら社会保険一択
- 将来の年金を増やしたいなら社会保険
- 個人事業主やフリーランスになるなら国民保険
それぞれ詳しく解説します。
正社員になりたいなら社会保険一択
フリーターがこれから正社員になりたいと考えているのであれば、どちらの保険制度に加入するかという判断をする以前に社会保険一択となります。
これは、社会保険の加入条件が基本的に正社員を対象としているためです。
正社員になることで基本的に社会保険に加入することになり、給料から天引きされる形で毎月納付することになります。自分で特に保険料を支払う手続きをする必要はなく、かつ多くのケースで国民保険よりも支払う保険料が低くなると考えられます。
将来の年金を増やしたいなら社会保険
将来もらえる年金の金額を増やしたいのであれば、社会保険に加入することをおすすめします。社会保険に加入することで、国民年金に加えて厚生年金を将来受け取れるようになります。
一方、国民保険の場合は国民年金のみしか加入できません。
厚生労働省の「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、令和4年時点での厚生年金、国民年金でそれぞれもらえる平均額は以下のようになっています。
- 厚生年金:144,982円
- 国民年金:56,428円
社会保険に加入し、しっかりと厚生年金の保険料も支払うことができれば、年金として毎月20万円程度もらえる計算になります。
一方、社会保険に入ることがなければ、将来もらえる年金は国民年金分の5.6万円しかもらえません。
将来の生活を考えるのであれば、社会保険に加入したほうが良いと考えられます。
個人事業主やフリーランスになるなら国民保険
個人事業主やフリーランスとして働いていく道を選択したいのであれば、国民保険を選ぶことになります。
加入条件の解説でも触れた通り、個人事業主やフリーランスは社会保険に加入することができません。したがって国民保険に加入して生活していくことになります。
国民保険の場合は保険料を全額自分で支払わなければならなかったり、厚生年金に加入できなかったりなど、いくつか注意すべきポイントがあります。
ちなみに、受けられる社会保障という観点でいうと社会保険も国民保険も大きな変わりはありませんので、あわせて認識しておいてください。
よくある質問
最後によくある質問を2つ取り上げて解説します。
フリーターが国民健康保険を免除されるには?
フリーターが国民健康保険の支払いを免除してもらうためには、親の扶養に入ることが考えられます。親の扶養に入ることで、自分は国民保険の支払い義務がなくなります。
親が社会保険に加入している場合は、子供のことを扶養に入れられるため、扶養控除を受けられるようになります。実質的に節税につながるケースもありますので、親にとってもメリットになるケースも考えられます。
なぜ社会保険の方がいいと言われているのですか?
社会保険の方が国民健康保険よりも良いと言われている理由として考えられるのは、保険料を企業が折半してくれることや、厚生年金に加入できるという点が挙げられます。
加えて、国民健康保険は健康保険のみですが、社会保険に加入すると傷病手当金(病気やケガで働けない時に給与の一部が支給される)や出産手当金、育児休業給付金なども含まれます。
支払う保険料や将来もらえる年金の額、保障内容といった観点で、社会保険と国民保険のどちらが得なのか判断するようにしてみてください。
まとめ
社会保険と国民保険の加入条件や保険料の計算方法、加入できる年金制度といった複数の観点で比較すると、社会保険の方が得だということができます。
もしフリーターがこれから社会保険に加入したいと考えるのであれば、正社員を目指すのが最も良い方法だと言えます。
就職活動したことがなく、正社員になるのが不安というフリーターの人は、就職エージェントに相談してみるのもおすすめです。