ニートの方のなかには「勤労の義務に反しているから、ニートは働いたほうがいい」という主張を聞いたことがある方もいるかもしれません。
そうした主張を耳にして「自分は働いたほうがいいのかな…?」と気になることもあるでしょう。
そこで、本記事ではニートが働いたほうがいいとする根拠と、働かなくてもいいとする根拠の両方をまとめました。
また、記事の後半では、働くか迷っているニートの方におすすめの対処法も解説しています。
記事を読めば、あなたが今後働くべきか働かないほうがいいかを中立的に判断できるでしょう。
働こうか迷っているニートの方は、最後まで読んでみてください。
- ニートが働いたほうがいいという主張の根拠には、日本国憲法の「勤労の義務」に加え、人手不足の状況にある社会的な事情がある
- 一方、働かなくてもいいとする根拠には、自己決定権・憲法擁護義務に加え、ハンナ・アーレントの思想などが挙げられる
- 働くか迷っているニートの方におすすめの対処法は、求人サイトを眺める・ニートから就職した方の体験談を読む・第三者に相談することがおすすめ
そもそも勤労の義務とは?
勤労の義務とは、国民が自分の労働によって生活を維持する義務のことです。
教育(日本国憲法第26条2項)・納税(同第30条)と並んで、国民に課せられている三大義務の一つとされています。
勤労の義務に関する日本国憲法の条文は以下のとおりです。
日本国憲法第27条1項
「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」
引用:e-Gov法令検索「日本国憲法」
しかし、勤労の義務は単に「働かなければいけない」ことを表しているだけではありません。
自分の能力や興味を活かして、社会に役立つ仕事をすることが大切だという意味も含まれています。
ニートは働いたほうがいいとする根拠
ニートを巡っては「働いたほうがいい」と考える方もいれば「働かなくても良いのでは?」と考える方もいます。
そこで、本項目ではそれぞれの考えの背景にある根拠をまとめました。
両者の根拠を紹介することで、あなたが働いたほうがいいのか、そうでないかを中立的かつ多面的に判断できるでしょう。
まずは、ニートが「働いたほうがいい」とする根拠から解説します。
「自分は働くべきなのだろうか…」「なぜ働かなければいけないんだろう?」と気になる方は、チェックしてみてください。
1. 憲法に勤労の義務があるから
「ニートは働いたほうがいい」とする根拠の一つに、日本国憲法に「勤労の義務」が定められていることが挙げられます。
本来、日本国憲法は国民を縛るものではなく、国家を規制するための法律です。
※詳細は「ニートが無理に働かなくてもいいとする根拠」の「憲法擁護義務」という項目で解説します。気になる方は、このまま読み進めてみてください。
しかし「義務」という言葉の響きがゆえに、働いていないニートの方がいることに違和感を抱く方もいます。
そのため「働いていないことは良くない。ニートは働いたほうがいい」という発想につながっているのかもしれません。
2. 日本が人手不足の状況にあるから
「ニートは働いたほうがいい」とする根拠として、日本が人手不足の状況にあることも挙げられます。
日本の有効求人倍率は1倍を超えている
厚生労働省の一般職業紹介状況によると、令和6年7月の有効求人倍率は1.24倍でした。
参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年7月分)」
有効求人倍率は、求職者1人あたりに何件の求人があるかを示す数値です。
1倍を超えているということは、人手が足りていない状態を表しています。近10年で見ても、すべての年度で1倍を超えていることがわかりました。
年度 | 有効求人倍率(平均) |
---|---|
平成26年度 | 1.11倍 |
平成27年度 | 1.23倍 |
平成28年度 | 1.39倍 |
平成29年度 | 1.54倍 |
平成30年度 | 1.62倍 |
令和元年度 | 1.55倍 |
令和2年度 | 1.10倍 |
令和3年度 | 1.16倍 |
令和4年度 | 1.31倍 |
令和5年度 | 1.29倍 |
多くの企業が人手不足を実感しているというデータも
また、帝国データバンクの資料では、多くの企業が人手不足を実感していることが明らかになっています。
2024年4月の調査によると、実に51%の企業で正社員が不足していることがわかりました。非正社員が不足している企業の割合も30.1%にのぼっています。
参考:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年4月)」
業種別の数値は以下のとおりです。
正社員 | 非正社員 | |
1位 | 情報サービス(71.7%) | 飲食店(74.8%) |
2位 | 旅館・ホテル(71.1%) | 旅館・ホテル(63.8%) |
3位 | 建設(68.0%) | 各種商品小売(60.8%) |
4位 | 自動車・同部品小売(64.9%) | 人材派遣・紹介(59.7%) |
5位 | 金融(64.2%) | メンテナンス・警備・検査(57.8%) |
6位 | 運輸・倉庫(63.5%) | 飲食料品小売(57.3%) |
7位 | メンテナンス・警備・検査(62.7%) | 教育サービス(47.2%) |
8位 | 家電・情報機器小売(60.4%) | 金融(45.3%) |
9位 | 医療・福祉・保健衛生(57.7%) | 農・林・水産(42.1%) |
10位 | 飲食店(56.5%) | 飲食料品・飼料製造(40.7%) |
業種によって多少バラつきはありますが、全体的に日本は深刻な人手不足に悩まされていることがわかります。社会の情勢により働くことが求められている側面もあるでしょう。
ニートが無理に働かなくてもいいとする根拠
「ニートは働いたほうがいい」という主張とは反対に「無理に働かなくてもいいのでは?」という考え方もあります。
そこで、ニートが無理に働かなくてもいいとする根拠をまとめました。
具体的な根拠は以下の3つです。
- 自己決定権
- 憲法擁護義務
- ハンナ・アーレントの思想
それぞれについて詳しく解説します。
「ニートだからといって、無理してでも働かないといけないの?」と疑問に思う方は、チェックしてみてください。
自己決定権
「ニートは働かなくてもいい」とする根拠のひとつに「自己決定権」があります。
自己決定権とは、自分の生き方・生活スタイルを自分の意思で決定できる権利です。日本国憲法第13条で規定されている幸福追求権に基づくものとされています。
自己決定権に関わる場面は、髪型・服装・医療・結婚・出産など多種多様です。
こうした事項に関して公共の福祉に反しない限り、公権力から干渉されることなく自由に決定できます。もちろん、職業に関しても自由に決めることが可能です。
ゆえに、働くか働かずにニートを続けるかも、自分の意思で決められるとも考えられます。
憲法擁護義務
日本国憲法第99条では、天皇・公務員に対して憲法を擁護する義務を課す一方、国民は入っていません。
日本国憲法第99条
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」
引用:e-Gov法令検索「日本国憲法」
日本国憲法第27条1項には勤労の義務が明記されています。しかし、何も国民に対して法的義務を課しているわけではなく、あくまでも倫理義務を課しているにすぎません。
実際に国民に対して法的義務を課しているものは、憲法ではなく法律です。
勤労の義務を定めた法律はない
教育・納税に関しては、それぞれ義務を課した法律があります。
教育の義務に関する規定は以下のとおりです。
学校教育法第17条1項
「保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。」
引用:e-Gov法令検索「学校教育法」
また、納税の義務は、所得税法や地方税法といった税金の法律によって課されています。
一方、勤労の義務を定めた法律はありません。
加えて日本国憲法第18条では、本人の意思に反して強制的に役務を課すことを禁止しています。
「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」
引用:e-Gov法令検索「日本国憲法」
犯罪による処罰の場合を除いて、労働の強制はできません。
そのため、ニートだからといって強制的に働かせることは不可能です。
ニートの方は働くか働かないかを自分の意思で決められるうえ、別に働かなくても法律的に問題が生じるわけではありません。
そのため、働かないという選択を取る方も一定数います。
事実、総務省統計局の労働力調査ではニートの人口が59万人いることが明らかになっており、働かないという選択を取る方がたくさんいることは明確にうかがえるでしょう。
参考:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果の概要」
ハンナ・アーレントの思想
「ニートは働かなくてもいい」とする根拠のひとつに、ハンナ・アーレントの思想もあります。
ハンナ・アーレントは、20世紀を代表するドイツ出身の政治哲学者です。アーレントは、人間の営みを以下の3つに分類しています。
- 労働:生命を維持していくための営み
- 仕事:人間世界を創造する営み
- 活動:他者との共同行為(言葉によるコミュニケーション)
労働とは、料理や農業のように生命維持のための肉体活動のことです。一方、仕事は人間世界を創造する営みを指します。
労働と仕事は一見似ているように思うかもしれません。
しかし、労働の生産物は「消費財」で消費を目的に作られるものである一方、仕事の生産物には耐久性があります。
たとえば、家具や芸術作品などが仕事の生産物です。消費財と違い、生産物がしばらくの間世に残ります。
活動は言葉を用いたコミュニケーションです。労働や仕事が「人対物」の構図である一方、活動は「人対人」の営みを指します。
そのため、アーレントは3つの営みのなかで、活動こそが人間らしさを表現する最も重要だと考えました。
一方で、生存のためにせざるを得ない労働は、人から自由を奪う営みであると主張しています。
現代社会でも生活していくために長時間残業を強いられたり、会社の意向に従わざるを得なかったりする方は多いでしょう。
アーレントの思想に基づくと「人から自由を奪う労働であれば、無理に働かなくてもいい」という考え方もできます。
働くか迷っているニートにおすすめの対処法
「働いたほうがいいとする根拠・働かなくてもいいとする根拠の両方を見たけど、結局どうしようか迷っている…」
ニートのなかには、上記のような悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。
そこで、本項目では働くか迷っているニートの方におすすめの対処法をまとめました。
具体的な対処法は以下のとおりです。
- 求人サイトを眺める
- ニートから就職した方の体験談を読む
- 第三者に相談してみる
詳細を順番に解説するので、就職を迷っている方はチェックしてみてください。
できそうなことを見つけてチャレンジしたうえで、就職するかどうか判断しても遅くありません。
まずは「これならできそう!」と思えることがあるか探すところから始めてみましょう。
求人サイトを眺める
働くか迷っているニートの方は、まず求人サイトを眺めるところから始めてもOKです。
求人サイトを眺めるだけでも、世の中にたくさんの仕事があることがわかるでしょう。
たくさんの仕事の中から、あなたの興味に合った仕事があるかを自宅にいながらにしてチェックできます。
もしかすると、あなたにぴったりの天職が見つかるかもしれません。
仮に「これならできそう」と感じる仕事が見つかれば、就職へのモチベーションアップにもつながるでしょう。
そのため、少しでも働くことを意識し始めているのであれば、求人サイトを眺めてみてください。
また、今すぐには就職を考えていない方も、情報収集の一環で求人サイトをチェックしてみると良いでしょう。
ニートから就職した方の体験談を読む
ニートから就職した方の体験談を読むこともおすすめです。
働くか迷っているニートの方には「ブランクがあるのに就職できるのかな…?」「今から働こうと思っても、就職は無理なのでは…?」という思いがある方もいるでしょう。
しかし、実際にニートから就職に成功した方の体験談を読めば「自分にもできそう!」とモチベーションがわいてくるかもしれません。
あなたと同じ、もしくはそれよりも困難な状況から就職した方がいることを知れば、勇気をもらえるでしょう。
体験談を読んでから就職するかどうか考えても遅くありません。
ニートの就職体験談では、多くの体験談を掲載していますのぜひ参考にしてみてください。
第三者に相談してみる
働くかどうか迷っている方のなかには「自分に合っている仕事がわからない…」「面接でニート期間をどう答えたらいいの?」などの悩みがある方もいるはずです。
上記のような悩みが原因で、なかなか働くことに対して一歩を踏み出せない方もいるでしょう。自力では悩みを解決することが難しい場合もあるかもしれません。
もし、自分ではどうしても悩みを解決できないのであれば、第三者に相談してみることも方法の一つです。
ハローワーク・ジョブカフェ・就職エージェントなど、ニートの方が無料で相談できる場所は多くあります。
カウンセラーがあなたの悩みに寄り添い、必要に応じて適切なサポートを提供してくれるでしょう。
本格的に就職を始めることを決めた際には求人の紹介に加え、応募書類や面接に関するアドバイスを受けられます。
働くかどうか決めかねている方は、第三者に相談することも検討してみてください。
まとめ
ここまで、ニートが働いたほうがいいとする根拠と、働かなくてもいいとする根拠の両方を解説しました。
ニートが働いたほうがいいとする根拠には、日本国憲法の勤労の義務や人手不足に陥っている社会の状況にあります。
反対に、自己決定権やハンナ・アーレントの思想に基づけば、ニートだからといって無理に働かなくてもいいと考えることも可能です。
いずれにしても、働いたほうがいいとする根拠・働かなくてもいいとする根拠の両方を比較したうえで、最終的に働くか働かないかをあなた自身で判断しましょう。
もし、働くか働かないか迷っている方は、第三者に相談してみることも方法の一つです。
ハローワークやジョブカフェ、就職エージェントなど、無料で相談できる場所はたくさんあるので、活用してみてください。
本格的に就職に向けて動き出そうと思った際にも、上記の就職支援サービスを利用すれば、さまざまなサポートを受けられます。
具体的には求人紹介や書類添削、面接対策といった支援を受けられるため、就職したい方の心強い味方になるでしょう。
無料で利用できるので、就職したいと考え始めた際には利用することを検討してみてください。