任期制自衛官の再就職事情とはどのようなものでしょうか?
日本の自衛隊は、国防や海外での平和維持活動、被災地等での多面的な活動に日々勤しんでいます。彼らはいわゆる「定年制」と「任期制」に分かれており、定年制は53~60歳まで勤務しますが、任期制は2~3任期で除隊することになります。
任期制自衛官の多くが高卒後に入隊するため、若く、再就職しやすいと言われていますが、現状はどうなのでしょう。ここでは、再就職する際に注意すべき点や援護システム等について紹介します。
この記事の目次
任期制自衛官の現状について紹介!
1990年、防衛省は自衛官の採用年齢の上限を24歳から26歳へ引き上げました。少子高齢化の波を受けての措置でしたが、年々、応募者数は減り続けています。採用者の数も計画より減少しており、このままでは防衛態勢を維持できないおそれがあるため「静かなる有事」と言われてきました。
そこで、2018年に約30年ぶりの再改定が施行され、採用年齢の上限は26歳から32歳へと引き上げられました。そもそも、自衛隊には定年制自衛官と任期制自衛官がおり、約27万人いるとされる自衛官のうち3分の2を占めているのが任期制自衛官です。
この任期制自衛官は、多くが高卒後すぐに入隊するため若年層が多いのが特徴で、2~3任期の任期を満了すれば任期の延長か除隊となります。任期が短いのは、より体力に恵まれた人材に入れ替える目的があるからですが、任期が限定されているため公務員としての安定性が得られず、魅力を感じない若者が多くなっています。
加えて、ハードで危険度が高い自衛隊特有の職務に対するアレルギーがあるため、二の足を踏む若者が減らない風潮もあります。1990年の改正時よりもさらに厳しい少子高齢化が進行しており、人材の確保は喫緊の課題です。
今後は、量的にも質的にも充分な人材を得るため、政策立案の要となるセクションが新設される他、定年延長、再任用の拡充、女性活用のいっそうの推進を図っていく方針です。
任期制自衛官の特徴とは?若年層に限られる
自衛隊員には自衛隊病院の医師や防衛大学生、官庁の事務官等も含まれますが、いわゆる自衛官というのは隊の制服を着用している人たちです。彼らには2種類の雇用コースが用意されており、「定年制」と「任期制」がそれにあたります。
任期制自衛官の募集年齢は18~27歳であり、1任期は2~3年間です。勤務期間は2~3任期と短く、終了後は、任期の延長か除隊かを選ばなければなりません。3任期で除隊する場合でも24~33歳と若いことが特徴的です。民間企業が第二新卒者に求めている条件に適合し、彼らと同じように再就職の活動をする元自衛官たちが多くいます。
自衛官たちは、厳しい上下関係や規律の中で職務を全うし、気力と体力を磨いた者が多く、民間企業でも重宝されます。また、任期制自衛官は任期が決まっているため、定年制自衛官よりも除隊しやすい状況にあります。
しかし、隊舎内で同じ仲間と同じ時間を共有していることが多く、再就職に関する情報を自力で得ることが難しいのも事実です。第二新卒者向けの転職支援サービスや一般社団法人自衛隊援護協会による就職サポートを利用すれば、自衛官時代に学ぶ機会がなかったビジネスマナー等を習得できます。
任期制自衛官の再就職の現状は?
自衛官を辞める場合は、各駐屯地の援護室や援護センターを経由して再就職先を探すことがほとんどです。自衛官時代は職務に忙殺され、民間企業の情報等を集めにくいという現状があるからです。
任期制自衛官を辞める年齢は20代半ば~30代前半ですが、彼らが再就職先として望む企業の上位は「情報・インターネットサービス」「銀行」「調査・コンサルタント」「電子・電機」「素材・化学」「情報処理・ソフトウェア」等です。しかも、多くが大手企業への就職を望みます。
一方で、援護室が紹介するのはこれらの業種とは異なり、警備、建設、運輸といったものが多く、しかも中小企業がほとんどです。その場合、自衛官時代に得られたスキルを活用できない企業に転職する、体力的にハードな仕事に就く、といったケースが多くなります。
しかし、中には、自衛官という特殊な職業で得られた経験を積極的に評価するという企業もあります。自衛官といっても配属される部署は様々で、習得できる資格も多種多様です。また、厳格な階級社会を経験し、早くから協調性を磨いてきた実績があります。それらを前向きに取り入れれば、自社にとって強力な武器になると考えている企業もあるのです。
自衛官の再就職へ向けての就職援護
就職援護その1:教育や訓練
任期制自衛官が民間企業に再就職を希望する場合は、除隊する1年半前から就職へ向けた準備に取り掛からなければなりません。自衛隊の就職援護室等では、再就職希望者への支援を行っています。
中でも重要視しているのが、任期制自衛官へのライフプラン教育です。自衛官に人生計画を確立させることが狙いであり、職業選択や資格取得といったスキルアップに関わる自助努力を促します。主要4駐屯地で行われ、合計12回実施されます。プランの概要は、職業興味検査と呼ばれる自己分析、自己啓発、グループ討議等です。
さらに部内・部外技能訓練も併せて行われます。対象者には任期制自衛官だけでなく定年制自衛官も含まれます。部内訓練は自衛隊内の施設で実施されますが、部外訓練は職業訓練校等に委託して行われます。これは、指導できる教官がいない、或いは必要器材等が整っていないために隊内の施設では実施できないからです。部内訓練には電気工事士や2級ボイラー等が、部外訓練には警備員検定や2級ヘルパー、自動2種、フォークリフト等が用意されます。
また、再就職に必要なのは法的な資格だけではありません。社会人として恥ずかしくないマナーや身だしなみ、接遇スキルも重要です。これらを援護担当者との面談を通じて学んでいきます。
就職援護その2:就活の方法
任期制自衛官はそれぞれの部署で様々な資格を取得し、スキルを磨いています。民間企業に再就職する場合、自分の技能を活かせれば問題ありませんが、希望する職種に就けるとは限りません。
また、希望していた職種であっても、就職してみるとイメージと違っていたということもあります。再就職先の情報は常に鮮度のいいものを得るようにしなければなりませんし、経済状況や企業業績、募集の内容をしっかり吟味する必要もあるのです。企業説明会に参加することで、そのような情報を手軽に入手することができます。各自治体には除隊する自衛官用に就職援護する協力本部があり、企業説明会を催してくれるため有用です。
しかし、企業説明会に参加する企業というのは、援護室や援護センターが扱う求人企業の一部です。就職活動の感触を得るには適しているものの、もっと幅広い業種に触れてみたいのであれば、援護室や援護センタ―に問い合わせなければなりません。
また、なんらかの都合や事情で説明会に参加できなかった、説明会に参加した企業に興味が湧かなかった、という場合は援護室や援護センターから個別に求人を紹介してもらえます。中には自衛官OBが再就職先を紹介してくれる場合もありますが、そのときはOBを仲介者にせず、援護室や援護センターを経由することが求められます。
就職援護その3:利用するメリット
任期制自衛官が再就職を希望する場合、就職先を選定する方法は様々です。民間のサービスとして代表的なのはハローワーク、求人サイト、転職エージェント等です。求人件数が多く、大企業を中心に求人を紹介するといった強みを持っているものや、応募書類の添削を行うものもあります。
しかし、相談員の経験に差があるケースがほとんどですし、退職自衛官の再就職をサポートしたことがない相談員ではスムーズに話が進まないこともあるので注意が必要です。それに比べ、自衛隊の援護室や援護センターは、自衛官の再就職をサポートしてきたエキスパートです。再就職活動は除隊する1年半も前からはじまるため、平素の業務との調整が不可欠です。
援護室や援護センターなら融通が利きますし、多忙で就職活動できない場合でも頼りになります。何より自衛官のスキルを企業側にアピールしてくれるというメリットがあり、過去に自衛官を採用した企業からの求人も多く紹介してくれます。
ただし、自衛官が希望する就職先が少ない、不人気の業界からの求人が多い、民間企業の就職経験がない担当者は企業の実情に通じてない、といったケースがあるので注意が要ります。
自衛官の定年と再就職の関係とは?
定年制自衛官の場合、階級によって定年に達する年齢は異なります。1佐以下では53~56歳と定められており、他の国家公務員よりも定年が早いため若年定年制と呼ばれます。この年齢は2020年1月から順次引き上げられる予定ですが、現在は、1佐56歳、1尉54歳、2曹は53歳であり、民間企業と比べても早い年齢で退職することになります。
しかし、それより早く退職したいと希望する人はたくさんいます。同期入隊者との職位に埋めがたい差がある、精勤しても組織の中のひとりに過ぎないという空しさを感じる、厳格な人間関係に疲れてしまった等、理由は様々です。それを上官に説明し、納得させる必要があるため煩わしいと感じている人もいます。
任期制自衛官なら任期が決められているため退職しやすく、再就職の活動にも入りやすくなります。彼らはまだ若いため、再就職してからもキャリアを重ね、スキルアップできるという将来性を秘めています。一方、定年制自衛官の退職者は、日常生活に困らない額の退職金を得ているため、再就職するなら退職後でもいいと考えている人たちがたくさんいるのが現状です。
しかし、希望した職種に就けるかどうかは別の問題です。若年層で占められる任期制自衛官でさえ理想と現実のギャップに苦しめられ、援護室や援護センターから紹介される一部の仕事に就かざるを得ないというケースが多くなります。
定年制自衛官の退職者であれば、就職先はさらに狭き門になりますし、同年代よりも体力に恵まれているため、体力的にハードな仕事を紹介されるケースが増えるのです。
自衛隊と民間企業の主な違いはどこにある?
自衛官と民間企業に勤めるサラリーマンとの明確な違いは、給与の安定性です。自衛官が手にする給与は国から支給されますし、給与基準が法律で規定されているため、社会情勢の変化や景気の動向、個人の業績等に影響されません。
また、支出の面でも厚遇されています。特に顕著なのが医療費です。自衛官の場合は給与から1~2%程が控除され、自衛隊病院や医務室で治療してもらえば医療費はフリーなのです。民間企業では3割もしくは全額負担を求められるため、かなりの差があります。
さらに、自衛官であれば制服一式が支給されますし、基地や駐屯地にある宿舎で生活できます。集団生活という息苦しさを感じる人もいますが、食事もできるというメリットがあります。支給額に比べて支出額が少ないため、民間企業と同じ給与水準であっても、より多い額を預貯金に回せるだけの余裕が生まれます。集団生活や縦社会の厳格さは、自衛隊特有のものですし、中にはそれを理由に退職する人がいます。
しかし、上官や仲間と深い繋がりが築けることも事実です。独特の業務内容のため、プライベートには自由が少なく、常に身を律した規則正しい生活が求められています。このような濃密な時間を共有し、厳しい訓練を重ね、自分を磨く日々を重ねてきたからこそ、人間的な絆も強靭になっていくのです。
運輸業界では退職自衛官を求めている
少子高齢化の波は、肉体的にハードな職種により強く押し寄せています。特に顕著なのが、拘束時間が長く、睡眠時間が短く、土日祝日も関係なく勤務しなければならないトラック運送業界だと言えます。
ハローワーク等に求人を出しても20~30代の若手からのリアクションが薄く、面接に足を運ぶ人たちはもちろん採用者の数も減り続けています。その影響は長年業界を支えてきたベテランドライバーが被ることになります。体力的にキツくなり、仕事を辞めたいと告げても、人手不足のため引き留められるケースが増えているのです。
そこで、運送業界では若年定年制自衛官と任期制自衛官から人材を確保するために手を尽くしてきました。彼らは職務上の訓練を通じて大型自動車免許等を取得していることが多く、体力に恵まれており、しかも上下関係の厳しさを経験済みです。それらを一から教育するにはコストがかかりますし、教育を施したからといって業界に定着してくれるという見込みも立ちません。民間の市場から労働力を獲得するより、元自衛官を業界入りさせたほうがメリットはあるのです。
運送業界では、2種類の方法で元自衛官たちをリクルートしています。ひとつは各企業が自衛隊の援護協会に対して個別に求人を行うケースです。もうひとつは、トラック協会が傘下事業者から出された求人を取りまとめ、一括して援護協会に提出するケースです。
任期制自衛官が再就職するポイントをチェック!
任期制自衛官は任期が満了すると、任期を延長するか、再就職を目指すか、という二者択一を迫られます。再就職は自衛隊を辞めることを意味しますから、当たり前のように支給されていたものが完全にストップします。生活やプライベートの縛りが減り、自由が増えるのと同時に生活の負担が増すことを明確に自覚しなければなりません。
それでも再就職を選ぶなら、除隊の1年半前から民間企業に採用されるための訓練に参加できます。在職中に就職活動をするというのが特徴的で、第二新卒者と同じ要件で活動できるメリットもあります。
また、再就職を希望すれば援護室や援護センターが企業説明会を催したり、求人を紹介したりしてくれます。ただし、担当する相談員が民間企業で働いた経験がない場合、企業の実情に疎いケースがあり、注意しなければなりません。
しかも、援護室や援護センターが紹介する求人は、彼らが持っている情報の一部でしかありませんし、希望している就職先を紹介してくれるとは限りません。自衛官時代に培ったスキルを活用できる職場が理想的ですので、企業説明会に参加しなかった会社等も紹介してくれるよう働きかける必要があります。
その点、ハローワークや転職エージェント等を頼れば企業の現状を詳しく訊けますし、自分がどんな職種に適しているのかといった相談にも応じてくれるため、援護室や援護センターにはない有用性があります。
任期制自衛官が再就職するときの注意点!
就職するのであれば、給与が高く、土日祝日は休みが取れ、残業が少なく、福利厚生がしっかりしていてプライベートも充実できる、という企業を希望するケースが多くなります。求人欄でこうした環境を謳っていても、実際に働いてみると絵に描いた餅だったというケースがほとんどです。一部は正しいかもしれませんが、多くはイメージとズレがあり、自分には合わない会社だったと後悔することになりかねません。
そんなことに陥らないために、時間をかけた自己分析と企業研究が必要です。希望する就職先を決めるより先に自分の適性を細かく知る作業が不可欠ですし、入社を希望している企業が本当にイメージした通りの企業なのかどうかを明確にしておけばミスマッチを防げるからです。
また、再就職を希望すれば除隊の1年半前から就職に向けた訓練を受けることができます。しかし、中には多忙過ぎて加われない、1年前でも充分間に合う、といった理由で参加しない自衛官もいます。1年半前という期間を設けているのは、除隊が迫ると再就職先を決めることが難しくなるからです。
自分がどんな適性を持っているのかをきちんと分析した上で、除隊後のライフプランを確立し、自分に合った再就職先を選定しなければなりません。除隊ぎりぎりの状態で援護室や援護センターに駆け込むようでは、転職先の希望を正確に伝えられませんし、担当者も自衛官の心情を把握することが困難です。
援護室や援護センターを利用すれば、任務をこなしながら再就職活動に向けた訓練ができます。担当者と密に連絡を取り合えますし、時間をかけて希望を細かく伝えることも可能になるのです。
再就職に迷いがあるときに検討すべきことは?
任期制自衛官は勤務する任期が明確に決められています。陸・海・空で違いはありますが1任期は2~3年です。2~3任期で満了となり、除隊を希望すれば再就職に向けて活動することになります。定年制自衛官に比べて退職しやすい環境にあり、除隊の1年半前から再就職に必要な訓練が施されます。
しかし、少子高齢化に歯止めがかからない人手不足の時代ですから、良質な人材を確保しておきたいのは民間企業だけでなく自衛隊も同じです。そのため、中には任期を延長し、昇進を目指せばどうかと引き留められるケースもあります。
上官の誘いを受け、幹部を目指して任期を延長する人はいますが、強く除隊を望む人もいます。確固たる考えがあるなら、再就職へ向けた動機付けになり、採用を勝ち取るための訓練にも熱が入ります。
さらに、2~3任期で除隊すればまだ20代半ば~30代前半ですので、第二新卒者の扱いで活動でき、民間企業に就職しやすい現状があります。自衛官は様々な技能を得て就職するため、即戦力であり、人手不足を補って余りある人材として期待されています。注意しなければならないのは、自衛官としての仕事に嫌気がさしたといった短絡的な理由で再就職すると、謳い文句の厚遇に吸い寄せられる危険性があることです。働いてみると、条件が違った、思った程いい待遇ではなかった等のミスマッチが生じるため、除隊するときは明確な意思を持つことが肝心です。
任期制自衛官はポイントを押さえて再就職を成功させよう!
任期制自衛官は任期が確定しているため、定年制自衛官よりも退職しやすい環境に置かれています。再就職を希望すれば除隊の1年半前から採用に向けた訓練を受けられ、援護室や援護センターを利用することで求人を紹介してもらえます。
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