月80時間以上も残業をしている人が多く、日本の労働時間は長いとよく言われます。「残業代が稼げるから」とか「みんな普通にやっている」と言われるかも知れませんね。
しかし、月80時間以上もの残業が続く状況は非常に危険なのです。健康を大きく損なう可能性もあり、一歩間違えば過労死につながる危険性もあります。
この記事では、長時間の残業の危険性、過労死の基準、ブラック企業の見分け方について解説します。
危険!月80時間の残業
労働基準法で法定労働時間が「1日8時間まで・週40時間まで」と規制されています。しかし、これには抜け道があるため、時間外労働が際限なく増えている現状があります。
それは、残業に関して労使で締結される協定で、36協定(さぶろくきょうてい)と呼ばれるものに原因があります。
36協定とは?
36協定(さぶろくきょうてい)とは、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて働く場合に、例外的に月間45時間までの残業を認められるようになる協定です。
36協定のガイドラインである45時間を大きく超えて働くこと自体、ブラック企業だと言われても不思議でも何でもありません。
まして、残業時間が月80時間を超えるとなると、会社で12時間程度労働していることになります。通勤時間まで含めると自分の時間が本当に取れない状況です。
残業時間の多さは転職理由の上位
転職情報サイトDODAの2016年の調査によれば、転職理由の第4位に「残業が多い/休日が少ない」が挙がっています。度を越した長時間労働は、十分転職を考える動機になるのです。
残業代が出るし稼げるからいいや、と思っている人もいるかもしれませんが、そんな生易しい話ではないのです。過労で命に係わることになりかねませんし、そこまでいかないまでも大いに健康を害する可能性が高いのです。
80時間以上の残業は過労死の危険が高まる
厚生労働省が定める「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」や「心理的負荷による精神障害の認定基準」によれば、残業が月80時間を超える状態が続く場合、心疾患や精神疾患による過労死の危険性が高くなるとしています。
月80時間以上の残業が続くと行政が検査する可能性も
この残業が月80時間を超える状態が続く場合は、行政による立ち入り検査が入る可能性があります。これは先ほど話した36協定の例外規定で80時間働くことを仮に認めていたとしても、立ち入り検査が入ります。
その検査の中で違法性が認められれば企業名の公表や書類送検がなされることもあります。
長時間の労働は残業代を一時的には稼げるのかも知れませんが、体を壊してしまっては、治療に時間もお金もかかってしまいます。
自分は大丈夫だと思っていても、突然体調を崩す場合も十分あり得ます。また、コンプライアンスが重視される昨今において、ブラック企業のイメージは非常に悪いものになってきています。月に残業80時間くらい大丈夫だと思っていること自体が、非常に危険なのです。
月80時間の残業をした結果
月に残業80時間をこなすとなると、1日12時間程度は会社で仕事をしている計算になります。通勤時間も含めると、1日24時間のうちの半分以上が仕事で埋められていることになります。
しかも、睡眠時間・食事・入浴・家事も考えると自分の時間はほとんどなくなってしまいます。このことは、生活していく上で以下のような問題を生みます。
- 体調不良
- ストレス
- 疲労により仕事の効率が下がり、残業が増える
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
体調不良
長時間労働自体の疲れも非常につらいものがあります。それだけでなく、満員電車での通勤が片道1時間程度の人も珍しくないことを考えると、その肉体的疲労は非常に高いです。
また、仕事が終わった後から、翌日に出勤するまでの時間が短くなるため、睡眠時間も短くなります。すると、疲労の回復が追い付かないため、徐々に疲労が蓄積していきます。
そのため、休日は疲労で1日中体が動かない人も中には出てきます。疲労の蓄積により、体の抵抗力も弱くなり、いろいろな病気にかかりやすくもなります。
ストレス
仕事にはストレスがつきものです。人間関係や業績、企業同士の付き合いなど、気を使う場面も少なくないでしょう。
罵声や暴言が飛びかねないブラック企業であれば、そのストレスは非常に高いでしょう。しかも、1日のほとんどが仕事の時間となるため、ストレスにさらされる時間も長くなります。
また、自分の時間が取りにくいために、気分の切り替えが難しく、ストレスを溜めこんでしまう人も少なくありません。その結果として、ストレス性の疾患や、うつなどの精神性の疾患を抱えたりしてしまう人が近年急増しています。
厚生労働省の調査によれば、気分障害患者数が、1999年で約44万人、2008年で104万人、2014年には392万人と急激な増加傾向にあります。
仕事が忙しくて診察を受けられていない人も多いことを考えると、ストレスを解消し切れていない人は少なくないといえるでしょう。
仕事の効率が下がり、残業が増える
疲労が蓄積した状態でメンタルもやられている状況では、仕事もはかどりません。その結果、仕事が思うように進まず、残業時間がさらに増えていくという負の連鎖が起こりえます。
日本はドイツの3分の2の生産性?
残業や休日出勤が大きく規制されているドイツと、日本との労働生産性について比べてみましょう。 2016年のOECDの時間当たり労働生産性の調査によれば、日本の46.0ドルに対してドイツは68.0ドルもあります。
これは単純にみれば、日本はドイツの3分の2の生産性しかないということです。その原因の1つとして挙げられているのが、長時間労働による疲労・ストレスの蓄積だと言われています。
このような状況が、過労死や自殺を誘発していると言っても過言ではありません。そのため、ブラック企業を見る目も厳しくなってきています。
近年「ワークライフバランス」「働き方改革」という言葉が聞かれるようになったのも、そのためなのです。
知っておこう!過労死基準
残業が月80時間を超える状態が続く場合、心疾患や精神疾患による過労死の危険性が高くなると、厚生労働省が定めていることは、先ほどお話しました。
厚生労働省が定める「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」は、以下のとおりです。
- 健康障害を発症する前の2ヶ月ないしは6ヶ月にわたって、1ヶ月の残業時間の平均が80時間を超えている
- 健康障害が発症する前の1ヶ月に100時間を超えている
心疾患については、直近2ヶ月以内に80時間であれば、過労死の認定が降りる可能性が非常に高いです。「心理的負荷による精神障害の認定基準」、つまり精神疾患についても基準はほぼ同じです。
1ヶ月に100時間以上であれば、長時間労働と過労死の因果関係が認められる可能性は非常に高いです。80時間以上であっても、ストレスの高い状況下であれば、その因果関係が認められます。
ストレスの高い状況については、以下のようなものが具体例として挙げられます。
- 勤務時間が不規則
- パワハラや暴言が横行している状況
- 配置転換により、当人に向かない業務を強いられる
- 社内でのいじめがあって、適切な対処がなされない
長時間の残業だけでもストレスは酷いのですが、このような状況があるブラック企業であれば、すぐにでも転職を考えたほうがいいでしょう。
80時間以上の残業の証拠があれば失業保険がもらえるかもしれない
しかし、転職するといっても、やはり生活費のことが気になるでしょうし、転職活動のための時間もきっと心配になります。
ただ、月80時間の残業が数ヶ月続く環境の場合、自ら退職しても、その残業時間の証拠をハローワークに提示できれば、「特定受給資格者」として3ヶ月間の空白期間なしで失業保険を受けられる制度もあります。
残業時間の記録を取ってから転職
労働環境が悪くて身の危険を感じるようであれば、残業時間の記録を取った上で退職するのも可能性の1つです。自分の体を守れるのは自分だけです。長時間勤務が常態化している企業からは、一刻も早く転職を考えましょう。
転職前に!ブラック企業の見分けかた
ブラック企業から逃げるためにも、転職するのは重要な選択肢です。しかし、転職した結果、またブラック企業に入ってしまっては意味がありません。転職する前にブラック企業であるか見分ける方法はいくつかあります。
求人が常にある
これはブラック企業を見分ける上で、非常に分かりやすい例です。
雇用条件がそもそも悪いために、誰も応募しないというケースが1つです。
たとえば、最低賃金ぎりぎりで生活を維持するのが難しい条件であったり、給料の割に高い能力を要求されたりする場合が当てはまります。
ただ、より注意が必要なのは、一見良さそうな条件なのに求人が出ている企業の場合です。特に給与面でつられて応募してしまうこともありますが、実際に入社してみると労働環境やが劣悪だったり、人間関係が悪かったりすることがあります。
そのため、応募する人も多く採用も多いのですが、次々と人が辞めるために、常に求人があるのです。
求人を一定期間見ていると、そのような企業は一目で分かります。そのため、転職活動には一定時間をかける必要があるかと思います。
みなし残業代制や裁量労働制での雇用
「みなし残業代制」とは、一定の時間の残業代を給料に含めて支給する制度です。超過する部分については、本来は追加で支払われるべきものです。
しかし、みなし残業代制を採用している企業は元から残業が多く、残業代の圧縮のためにこの制度を悪用しているところが少なくありません。つまり、残業の超過分を支払わないサービス残業が横行している可能性が高いです。
「裁量労働制」とは労働時間に関係なく、一定の時間労働したとみなされる制度です。そのため、残業という概念自体がなく、業務が終わらない限り、延々と働く羽目になりかねません。
これらの制度を採用している会社は、仕事量が尋常でないだけでなく、まともに残業代を払うつもりもない、典型的なブラック企業の可能性が非常に高いです。残業代を支払うのは、企業の義務です。それを守れない会社がまともである可能性はほぼないでしょう。
悪い噂が目立つ
噂が立つのも、100%事実ではないものの、根拠となることがあるために起こります。インターネットで「企業名うわさ」や「企業名評判」と検索すると、いろいろな噂が出てきます。
どんな環境であっても悪い噂を立てる人はどうしてもいますが、圧倒的に悪い噂が多い場合は注意が必要です。
内容を読めば、その企業の問題点が浮かび上がってきます。特に複数人が同じような問題を言っている場合は、ブラック企業である危険性が非常に高いです。その内容が気にならないのであれば構いませんが、ためらうようであれば応募するのは止めたほうがいいでしょう。
夜遅くや休日にも電話が繋がる/メールが来る
会社によってはシフト制を採用しているので、夜遅くや休日に連絡が取れる場合もあります。このことは、シフト制でも構わない人であれば気にする必要はありません。
しかし、企業が定めている営業時間が終わっている、あるいは休業日なのに、電話が繋がったりメールの返信がきたりするようであれば、労働環境に問題がある可能性が高いです。
可能性の1つは、通常の営業時間では対処しきれない仕事を抱えているため、長時間勤務になりがちな点が挙げられます。もう1つは、従業員の時間を何とも思っていないワンマン経営者が運営している可能性もあります。
夜になっても会社の部屋の電気がついているようであれば、長時間の残業が発生しているという可能性が考えられます。
その場で内定が出る
従業員を採用するには、お金も必要で非常に重要な業務であるため、まともな企業であれば、内定を出すにも社内で検討するのが普通です。
しかし、面接官の一存で内定が出る会社は、労働環境が非常に怪しい部分があります。というのも、常に人手不足であるため、片っ端から採用している可能性が高いのです。
中小企業の場合、社長自ら面接する場合もあります。ワンマン社長の場合、人の意見を聞かずにその場で採用を決めてしまうことが十分にありえます。その場合、よほど馬が合いそうだと思ったのであれば話は別ですが、一般的には避けた方が無難でしょう。
会社から自分の身を守ろう!
残業が月80時間を超える環境では、自分の心身へのダメージが計り知れません。万が一、病気などになってしまったら回復するのに、下手をすれば年単位の時間が必要となってしまいます。
自分の体をブラック企業から守れるのは自分だけです。長時間勤務が常態化している企業からは一刻も早く離れたほうがいいでしょう。
自分の時間が取れるようなよりよい環境を求めて転職を検討するのは、いたって普通の手段です。自分の労働環境が酷いと感じるようであれば、転職することを積極的に考えてみてはいかがでしょうか。