造船業界とは何をしているどのような業界なのかを知っていますか。この記事では海運を支える造船業界の収益構造や業界の課題、現状について詳細を解説します。戦前から日本の重要な産業である造船業についてよく理解し、就職活動をスムーズに進めていきましょう。
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造船業界とは?概要とビジネスモデル
造船業界について、その概要とビジネスモデルについて解説します。
造船業界についての概要
造船業界は旅客船やコンテナ船、各種タンカーやフェリーなどのように多様な船舶を製造する業界です。取り扱う船のサイズも数人乗りを想定した小型船から豪華客船や原油タンカーのような巨大な大型船まであらゆる範囲をカバーしています。造船業界は江戸時代末頃から明治時代、そして戦時中に向けて発展を続けてきました。さらに戦後の高度経済成長期に入ると世界的にも注目されるほどに技術力を伸ばし、現在でも高性能かつ安全性が高い船舶の製造を担っています。しかし世界的な不況の影響を受けて造船業界の成長は横ばい~若干のプラスの成長率という程度にとどまっているのが現状です。燃料価格の上昇や船舶による輸送や旅行需要の低下によるコストの増加と売り上げの低下に加えて、環境問題への取り組みが求められるようになったことで製造プロセスや原料、造船技術の再検討を余儀なくされているのが業界成長の低迷をもたらしている主な原因です。これは日本の造船業界に限ったことではなく、世界的に業界全体の伸びが悪くなっています。
造船業界のビジネスモデル
造船業界の基本的なビジネスモデルや特徴を解説します。
造船業界のビジネスモデル
造船業界では船舶を製造して販売することにより利益を得るのが基本です。造船会社では顧客の大半が船主か海運会社となります。これらの顧客から新しい船の建造に関する相談を受けてヒアリングをし、造船所でそのニーズに沿った形の船を設計します。そして、その設計をもとにして打ち合わせを進めていき、船主や海運会社から正式な受注を受けて造船の契約が成立します。
造船の際には必要になる部材や塗料、設備や機器などの手配から始めていきます。そして、造船所で設計に従った製造を実施し、完成した船を海に運んでテストするのが一般的です。エンジンの性能を確認するなどの動作のチェックまで全て行い、オーダー通りになっていることを確認したら報告書や検査書などをまとめて船と共に依頼主に納品します。このような流れで依頼主に納得してもらえる船を引き渡すことで、対価として収益を得るというのが造船業界のビジネスです。
造船業界のビジネスモデルの特徴
依頼主を探してヒアリングをすることから始めて、完全にオーダーメイドで製造するのが造船の特徴で、受注してから完成するまでには1~5年間という長い期間が必要になるのが一般的です。依頼主への見積もりを作成した時点から、製造期間中に原価が上がってしまうようなこともあるため、造船に必要になるあらゆる資材の価格変動に対して敏感になり、利益を失わないようにすることが必要とされます。製造単価が大きいですが、造船所のスペースも広く必要になるので同時並行で製造できる数にも限りがあり、いかにしてリスクが低く利益率が高い造船依頼を受けるかが重要になっています。
造船業界では船舶の製造に特化していて、全て自社製造にすることで信頼性のある取引をできるように心がけているメーカーも少なくありません。しかし、自動車や航空機なども取り扱っている総合メーカーもあります。幅広い分野で設計や生産、開発などを手掛けることでリスクを分散して安定した利益を上げられるようにしているのが特徴です。
造船業界にはどんな仕事がある?造船業界特有の職種を解説!
造船業界には多様な職種の人がいますが、業界特有で専門性がある職種をピックアップして解説します。
設計
造船業界では設計の仕事を担当する各種設計士が活躍しています。設計とは船舶の依頼主との打ち合わせによって希望をヒアリングした後、実際に図面に落とし込んで船を設計する仕事です。営業担当者が依頼主から話を聞いて作り上げた基本計画に基づいて設計図の作成やエンジンの開発などを担当するのが一般的です。企業によっては設計責任者も依頼主との打ち合わせに参加して要望を聞いたり、基本設計の説明をしたりすることもあります。
設計作業はCADなどを使用してパソコンで行うのが一般的で、大枠としては船の全体像や動力などの設計をします。その上で詳細設計を進めていき、パーツ一つに至るまで入念に構成を作り上げるのが業務です。生産・製造はこの設計図に基づいて作業をするため、設計は造船における土台になる部分です。設計のミスがあったり、依頼主の意見とは合わない部分があったりすると大きな損失を生むことから、重大な責任を負っている仕事です。複数の分野にまたがる高度な技術も必要とされるので、一般的には一人で設計を行うのではなく、各分野の専門の設計者が集まってチームを結成して一つの船を設計しています。
調達
船舶の製造をするにあたって必要な調達の仕事も重要なもので、資材調達の専門担当者を置いている現場が多くなっています。船を造り上げるためには多岐にわたる種類の資材を必要量だけ確保しなければなりません。鋼材や電線、各種機材などを設計士が選定した内容に合わせて発注し、価格や納期などの交渉をして製造上で必要とされるタイミングで納品が完了できるように手配します。原価管理、納期管理、在庫管理といった管理業務を中心とする煩雑な手続きをすることになる専門的な仕事です。
特に造船業界では一つの船を製造するのに何万という単位で部品が必要になります。その部品を生産あるいは開発するところから始める場合もあるので、数えきれないほどの原材料の調達や管理をしなければなりません。その適正管理ができているかで作業の進捗にも大きな影響を及ぼし、最終的には船の完成度も左右する可能性があります。さらに、良質の資材を好条件で調達することで会社の利益幅を大きくすることが可能です。バイヤーとしての目利きが必要になるため、現場経験が重視される仕事としても知られています。
営業
製品の受注販売を行うという性質上、造船業界でも営業職が活躍しています。基本的には自社製品として完成している船舶の造船依頼を受注できるように顧客に対して売り込みをするのが仕事です。社内の技術者と提携して作り上げた仕様書や概要書をもとにして顧客ニーズに基づいて適切な設計の船を選んで紹介し、依頼を勝ち取るというのが一般的になっています。営業は売り込みというイメージがありますが、基本的には顧客の課題解決のための提案として自社製品を用いるというスタンスで仕事をすることが求められます。具体的には、業務としては顧客が持っている船舶の状況や、現在抱えている経営課題などについて情報を集めていき、その情報に基づいて提案を行います。
造船業界では一つ一つの取引の金額が莫大になので一般的な業界よりも一つの受注に重みがあります。顧客としても莫大な投資となるため、依頼を獲得するには社内連携による魅力的な情報の提供力や依頼主との交渉力が必要です。また、日本の造船業界は世界的に着目されているため、海外との取引も多くなっています。そのためビジネスレベルの語学力が必要となることも多いです。
生産・製造
造船業界に独特の職種として生産・製造があり、造船を直接担うことから不可欠な仕事です。調達担当者が手配した資材を使用し、設計担当者が作った設計図や仕様書などに基づいて製造を進めるのが基本的な役割です。ただそのためには製造管理や品質管理を徹底し、現場で作業をする従業員の人材管理もする必要があります。アルバイトを雇って作業を担当させることもあり、正社員は管理担当者としてリーダーとしての役割を果たすことも多くなっています。
近年では情報技術やロボットを使用した生産が進められるようになってきているため、従来は手作業で行われていたところも機械化・自動化が進んでいます。しかし、生産には船舶を作り上げるための鋼材の加工やブロックの搭載などに加え、最終的には試運転、浸水確認などの点検作業もあります。未だに多くの過程は人による手作業が必要か、専門的な知識がある人による立ち合いが必要です。熟練の技術者が大勢集まる現場になっていて、連携を取りながら長時間をかけて安心して納品できる品質の船舶を造り上げています。
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造船業界の現状と課題、そして展望
造船業界の現状と課題、そして今後の展望について解説します。
造船業界の現状と課題
業界全体を見ると造船のシェアはトップの三つの国で9割以上をカバーしています。トップ3に含まれているのが日本と中国と韓国です。つまり、現状としては世界の造船業界を牽引している主要な産業と考えられる状況があります。しかし、多くの業界で共通しているように中国や韓国の安価でスピードの速い製造力が脅威になってきています。造船業界には中国も韓国も国家的に力を注いでいるので成長が著しく、日本は造船のシェアでこの2か国に次ぐ3位です。この課題に対して日本は企業再編によって競争力を高めることを画策しているのが現状です。
業界全体の動向としては低迷気味になっていることも否めません。需要の低下が起こっている問題もありますが、リーマンショックのような石油経済の変動による影響も大きく受けています。さらに船内騒音規制による駆け込み需要なども発生するなど、規制による景気の変化も起こりやすく、今後の動向は不透明な部分も多いというのが実態です。このような先行き不安に対して業界全体でどのようにして取り組んでいくかを明確にし、競争力を付けていくことが日本の造船業界における大きな課題となっています。
造船業界の今後の展望
造船業界は船の需要がある限りは存続していく業界という点では大きな衰退をするリスクがありません。海運の利用が低迷していったとしても必要性は簡単には失われることはないと想定されることから、業界がなくなるというほどの心配はないでしょう。また、リーマンショックの影響も円安の傾向によって収束に向かったため、今後は業界景気も安定する方向に向かえる環境は整ってきています。
ただ、燃料価格や船舶の需要に大きな影響を受ける業界ということに変わりはありません。円安によってリーマンショックの影響は緩和されましたが、この間に造船が進められてしまって船が余ったまま円高の時期が到来すると、業界全体が低迷期に入ってしまうリスクがあります。また、環境問題への取り組みなどに向けた技術開発が求められているため、コストが増加していく可能性もあるでしょう。規制による影響で製造コストを上げざるを得なくなるリスクもあることから、政治や景気変動、時代の状況などによる影響が大きい業界だということは念頭に置いておく必要があります。
さらに今後の展望を考える上で重要なポイントになるのが人材不足です。造船業界では技術職の不足が深刻化している状況があり、人材確保のために企業がどのような方策を取るかは注目すると良い点でしょう。福利厚生を充実させて人材確保を図るのがトレンドになっているので、就職先を考えるときには動向を確認するのが大切です。
造船業界は日本を支える重要な業界!
造船業界は日本の海運を支える日本にとって重要な業界です。社会経済の影響によって業界景気は上下しやすいですが、船が使用されている限りは需要がなくなることはないでしょう。就活生に人気の大企業が多く、簡単に就職できる業界というわけではないので、十分な業界研究をして就職活動を有利に進めていきましょう。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
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