鉄道業界というと運転士や車掌、あるいはいつも利用している駅で見かける駅員などを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし実は、鉄道業界の仕事はそれだけではありません。鉄道会社が手掛けている事業は意外と幅広く、職種によってはさまざまな事業に携わることができるのです。
この記事では鉄道会社の種類や行っている事業など、鉄道業界についてくわしく解説します。
※2022/3~2023/3の当社相談参加者へのアンケートで『満足』『どちらかといえば満足』を選んだ方の割合
鉄道会社の主な分類
鉄道会社は、その運営形態から大きく4つに分けることができます。それぞれについて、ご紹介します。
JR
かつての日本国有鉄道(国鉄)を前身とするJRです。国鉄は、鉄道省が行っていた国営の鉄道事業を1949年に引き継いだ公共事業体で、政府が100%出資する「公社」でした。その路線網は北海道から九州まで全国各地に及び、日本の旅客および貨物輸送の根幹を担っていました。
しかしモータリゼーションの進展による赤字の増大などさまざまな問題が発生し、それを打開すべく1987年に国鉄は分割民営化され、現在のJRグループが誕生しています。
JRグループは、旅客鉄道会社6社(JR北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州)と貨物輸送を専門に行うJR貨物の計7社で構成されています。このうちJR東日本・東海・西日本・九州の4社は純粋な民間会社で株式上場も果たしていますが、JR北海道・四国・貨物の3社は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)が株式を100%保有する特殊会社です。
大都市圏を擁し新幹線などのドル箱路線を持つ4社に比べ、特殊会社の3社は厳しい状況にありますが、国の支援を受けつつ合理化を進め、不動産業などにも進出して経営の安定を図っています。
もともとひとつの組織であったJRは、分割民営化後それぞれの道を歩み、独自色も強く打ち出してきました。その一方でかつての国鉄のネットワークを生かし、複数社にまたがる相互乗り入れやデスティネーションキャンペーンの共同実施など、事業範囲の広いJRグループならではのサービスも展開しています。
私鉄
私鉄は、純然たる民間企業が運営する鉄道会社です。「私鉄」という言葉は、もともと「国鉄」の対義語として生まれました。国鉄は分割民営化されてJRとなりましたが、その成り立ちの経緯から「JRは私鉄には含まない」という考え方が一般的です。
全国規模のサービスを展開していた国鉄とそれを引き継いだJRグループに対し、私鉄は地域密着型のサービスを行っているのが特徴です。大手私鉄として有名なものに、首都圏では小田急電鉄や東京メトロ、東急電鉄や西武鉄道などがあり、近畿圏では近畿日本鉄道や阪急電鉄、京阪電鉄や阪神電鉄などがあります。また、愛知県の名古屋電鉄や福岡県の西日本鉄道も大手私鉄です。その他に中小私鉄も日本各地に数多く存在します。
大手私鉄ではグループ企業の中に不動産業や小売業、レジャー関連業など異業種を営む会社を抱えていることが多いです。自社の沿線で宅地開発を行ったり、ホテルや百貨店などを作って集客することで、会社としての利益を上げるだけでなく地域の活性化にも大きく貢献しています。
JRでもこうした異業種への進出が見られますが、私鉄の場合は沿線価値を高めることで居住者を増やし、鉄道の利用者増につなげたいという考えもあり、地域の活性化にはより多く力を注ぐ傾向にあります。
第三セクター
第三セクター(三セク)とは、第一セクターである国や地方自治体と、第二セクターである民間企業が共同出資して作られた事業体のことをいいます。鉄道会社に限らず、第三セクターには運輸・都市開発・水道事業などさまざまな分野の法人があります。
鉄道の場合、第三セクターには旧国鉄やJRのローカル線から転換されたものが多いです。人口の減少が著しい地方では鉄道の利用者も減り、ローカル線は赤字がかさんで維持していくのが難しくなります。
とはいえ廃線にしてしまうと地元住民に不便を強いることになり、また街の衰退を招いてしまう恐れもあるため、国や沿線の自治体と民間企業が共同で出資して新たな鉄道会社を立ち上げ、路線を維持するというのが第三セクター鉄道の主な成り立ちです。三セクの経営は多くの場合鉄道会社が主体となって行い、株式を国や地方自治体が持つという形になっています。
こうした三セクへの転換は一部私鉄でも見ることができますが、その成り立ちは概ねJRと同じ事情です。また、JRでは新幹線が整備されると並行する在来線を廃止することが多く、その場合も三セクへ転換されるケースが多くなっています。
第三セクターとして有名な鉄道会社には、旧国鉄やJRから転換されたものでは岩手の三陸鉄道や群馬・栃木を走るわたらせ渓谷鉄道、岐阜の長良川鉄道などがあります。整備新幹線の完成により在来線から転換されたものとしては、新潟のえちごトキめき鉄道や熊本の肥薩おれんじ鉄道が有名です。
また、ローカル線からの転換ではなく最初から三セクで設立された鉄道会社もあり、東京の「ゆりかもめ」や神奈川の「横浜シーサイドライン」は、その代表的なものです。
公営鉄道
公営鉄道は、地方公営企業法に基づき地方公共団体が公営企業を設立して運営しているものです。民間企業と同じく独立採算制ですが、自治体が運営するため公共性を重視しているのが特徴となっています。全国各地にありますが、主に人口の多い都市に置かれており、「〇〇市(都)交通局」といった具合に名称に自治体名を冠していることが多いです。
公営鉄道の主な例を挙げると、まず東京都交通局では都営地下鉄線や路面電車の都電荒川線、新交通システムの日暮里・舎人ライナーを運営しています。
公営鉄道では地下鉄を運営しているところが多く、横浜市交通局や名古屋市交通局、札幌市交通局などにも市営地下鉄があります。地下鉄というのは建設に費用がかかる割に、地上を走る鉄道のような沿線開発ができないため、利益が出にくい構造です。そのため民間で建設するのは難しいのですが、地方自治体であれば信用を背景に容易に多額の資金を調達できるため、地下鉄の整備を実現することが可能です。
一方、公営鉄道の中には民営化されたものもあり、例えば大阪市交通局は2018年に全事業を民間会社に譲渡してその歴史を終えました。大阪市交通局が運営していた大阪市営地下鉄は、大阪市が100%出資する大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)に移行しています。また、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)も前身は国と東京都が出資していた帝都高速度交通営団という特殊法人で、2004年に民営化されたものです。
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鉄道業界の事業内容
鉄道業界の事業内容は、大きく3つに分けられます。それぞれについて、ご紹介します。
運輸事業
鉄道会社の主たる事業は、鉄道による運輸事業です。日々の通勤・通学で在来線を利用したり、休日のレジャーや旅行で新幹線や特急列車を利用したことのある人は多いでしょう。また、人だけではなくJR貨物のように貨物輸送を行う鉄道会社もあります。このように、鉄道で人や物を運び、その運賃収入を得るというのが鉄道会社の根幹となるビジネスモデルです。
鉄道の運行は、さまざまな職種の人によって支えられています。その代表的なものは、運転士や車掌・駅員などの現業職と、車両整備や保線・土木などに携わる技術職です。現業職は乗客の命を預かる立場なので、厳しい試験に合格しなくてはその仕事に就くことができません。
技術職は列車が安全かつ正確に運行するために欠かせない人たちです。こうした人たちの努力と高いスキルがあって、日本の鉄道はその安全性と時刻の正確性において世界の最高水準に達しているのです。
流通事業
鉄道会社の収益を支えるもうひとつの柱に、流通事業があります。鉄道会社の名前を冠した百貨店やスーパーを利用したことのある人もいるのではないでしょうか。JRには旧国鉄時代からキオスクという小さな売店が駅のホームなどに置かれていましたが、最近では自社運営のコンビニエンスストアを各駅に出店したり、大きな駅には構内にいわゆる「エキナカ」といわれる商業施設が設置されていることもあります。
さらには駅ビルやショッピングモールの運営にも乗り出すなど、各社とも流通事業には積極的に取り組んでおり、中には海外進出している会社もあります。
鉄道会社では駅周辺の再開発も盛んに行っており、駅ビル等大型商業施設の建設もその中に組み込まれることが多いです。駅ビル自体の収益はもちろんですが、駅前に大きな店舗を作ることで人を多く呼び込めば、そこへのアクセスに鉄道を利用してもらえるという目論見があるからです。
不動産事業
不動産事業もまた、鉄道会社にとって大きな事業のひとつです。自社の所有するビルを店舗や会社に貸して家賃収入を得る、ということもありますが、最も大きいのは沿線開発です。鉄道会社の不動産事業というと、関東なら東急電鉄、関西なら阪急電鉄を思い浮かべる人
も多いかもしれません。これらの鉄道会社は沿線の宅地開発に非常に熱心で、またブランディングにも長けているのが特徴です。おしゃれな街並みや高級感のあるイメージを作り上げて人々の関心をひきつけ、それによって沿線人口を増やすと同時に自社のブランド価値を高めることにも成功しています。
沿線人口が増えるということは、それだけ鉄道の利用者も増えるということです。従ってこの二つの事業には非常に強い相関関係があり、不動産事業が成功すれば運輸事業もうまくいく確率が高くなります。
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鉄道業界への適性と今後の課題
最後に、鉄道業界はどのような人材に適性があるのか、今回は直接鉄道の運行に携わる仕事への適性に絞ってご紹介します。そして、鉄道業界の現状や今後の課題についても解説します。
鉄道業界に向いている人材
鉄道会社での仕事でまず求められることは、時間をきちんと守ることです。定時運行は鉄道の大きな使命のひとつであり、特に日本の鉄道会社では非常に重んじられています。運転士や車掌がうっかり寝坊してそのためにダイヤが乱れたとなれば、多くの乗客に迷惑をかける大問題になります。
どんな仕事でも時間を守ることは重要ですが、鉄道の仕事では特にそれが強く求められるということは意識しておきましょう。
先に述べた通り、鉄道の運行は多くの人によって支えられています。従って、皆と協力して仕事ができるチームワークの得意な人というのも求められる人材です。人と協力する中で自分の仕事をしっかりこなす責任感も重要ですし、またチームで円滑に仕事を進めるにはコミュニケーション能力も必要です。
そして、安全かつ正確な運行のためには規律をしっかり守らなくてはいけません。ちょっとした気のゆるみが思わぬ大事故につながる場合もあるのです。鉄道会社ではすべての人が乗客の命を預かっていると自覚し、自分を厳しく律していくことが大切です。
また、鉄道会社でキャリアアップを目指す場合には、試験を受けたり資格取得が必要になる場面が多々あります。日々の仕事をこなしていくうえでも覚えなくてはならないことは多く、続けていくには向上心や学習意欲が必要です。
鉄道業界の動向
「鉄道はインフラなので安定した業界だ」というイメージを持っている人も多いでしょう。実際2019年まではJR・私鉄とも利用者数はほぼ横ばい、その一方インバウンド需要を受けて旅客数は比較的好調に推移してきました。少子高齢化や人口減少のため将来的に利用者数が減ることが予想されるものの、都市の再開発によって通勤客が増え定期券の売上が伸びるといった明るい材料もありました。
ところが2020年に新型コロナウイルスが猛威を振るい、同年4月に緊急事態宣言が出されたこともあって外出自粛が徹底され、テレワークの普及も手伝って鉄道利用者は激減します。
新型コロナが一時落ち着いた夏から秋にかけては「GoToトラベル」キャンペーンでやや持ち直したものの、冬に向かって再び感染者数が増加し、2021年1月には二度目の、4月には三度目の緊急事態宣言が発出されていて、鉄道会社にとっては苦しい状況です。
そこで鉄道各社は非鉄道事業に活路を見出そうとしています。もともと私鉄では不動産業や小売業、レジャー開発などを積極的に行っており、売上高に占める割合はかなり大きくなっています。沿線の開発は人を集め、鉄道利用者を増やすことにもつながりますから、今後も鉄道業界としては本業の鉄道事業と非鉄道事業とを両輪として進めていくことになるでしょう。
また、新たな施策として海外展開やMaaSといったものが挙げられます。国内での需要が減少に転じると予想される中、鉄道各社は積極的に海外進出を進めています。特に台頭著しい東南アジアの新興国では、慢性的な交通渋滞解消のため鉄道の需要が高まっており大いに期待できるところです。
国内では鉄道だけでなくバスやタクシーなどさまざまな交通機関が連携し、最適な移動手段の検索から決済までスムーズに行える「MaaS」というサービスが注目されています。MaaSには日本人だけでなく外国人観光客の利便性を向上させたり、あるいは高齢者の移動をサポートするといったメリットも期待されています。
鉄道業界への就職にチャレンジしてみよう
鉄道会社は運輸事業以外にも幅広い事業を手掛けているので、鉄道の運行そのものだけでなく、流通業や不動産業などさまざまな事業にも携わるチャンスがあります。そういった視点で、鉄道会社にチャレンジしてみるのもよいかもしれません。実際に鉄道業界に就職している人は、鉄道関連の学校出身者だけではありません。ぜひ万全の準備をしたうえで、就活に取り組みましょう。
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