「無職だけれど国民健康保険はいくら支払う必要があるんだろう」と疑問に感じていませんか?この記事では、現在無職で、健康保険の支払いに悩んでいる人に向け、国民健康保険の基礎知識や保険料の算定方式、保険料を安く済ませる方法をご紹介します。
国民健康保険について知りたい人だけでなく、保険料の支払いを少しでも減らしたい人も、ぜひ参考にしてみてください。
- 国民健康保険は、公的な医療保険制度。医療費の自己負担を1~3割まで減らせる
- 無職であっても国民健康保険に加入する必要がある
- 滞納すると「医療費が全額自己負担」「保険給付の一時差止」などの可能性も
- 保険料が払えない場合は「減免制度」を利用できる場合がある
この記事の目次
国民健康保険とは
国民健康保険は、公的な医療保険制度です。保険料を支払うことで、病気やケガなどに見舞われた際の医療費の自己負担を1~3割まで減らすことができます。
なお、保険者は都道府県や市町村です。職場などの健康保険に入っていない場合には個別に国民健康保険に加入しなければなりません。後述しますが、国民健康保険の加入対象であるにもかかわらず保険料を支払わない場合には、厳しいペナルティが課せられるので注意が必要です。
前年1月から12月の所得をもとに保険料が決まる
国民健康保険で支払う保険料は、前年1~12月の「所得」、そして「加入者数」と「年齢」をもとに決定されます。ここでいう所得とは、一般に「収入から必要経費を引いたあとに残る額」です。
例えば、2020年の1~12月までに事業を行って得た収入が年間300万円、その事業にかかわる経費が100万円かかった場合には、単純計算で200万円が手元に残ります。この200万円が一般的に所得と呼ばれるのです。
無職で収入がなくても国民健康保険料の支払いが必要
生活保護受給者の一部などを除き、日本国内に住所を持つすべての国民が医療保険制度に加入することを義務付けられています。そのほかの公的医療保険に加入していない場合には、たとえ無職で収入がなかったとしても国民健康保険料を支払わなければいけません。
ただし、無職が支払う保険料は低く抑えられています。保険料は前年の所得をもとに決定されるため、仮に前年の収入が0円であった場合には、算出される保険料が必然的に安くなるからです。とはいえ、国民健康保険料の支払いを一切しなくていい、というわけではないので注意しましょう。
国民健康保険の保険料が決まる仕組み
まず理解しておきたいのは、国民健康保険料で支払う保険料は、主に次の3つの保険料の「合計額」であるということです。
【医療分】
病気やケガをした際の医療費の財源となる部分
【支援分】
「後期高齢者医療制度」を支えるための財源となる部分
【介護分】
「介護保険制度」を支えるための財源となる部分(40~64歳の被保険者のみが支払う)
なお、「介護分」に関しては40~64歳のみが支払う義務を負う仕組みです。そのため、現在の年齢が40歳未満の場合には、支払う保険料が若干安くなる可能性があります。
それぞれの保険料を計算する際には、次の3つをすべて合計します。
- 所得割
- 平等割
- 均等割
例えば医療分に関しては、以下になります。
同様に、支援分、介護分に関しても「所得割+平等割+均等割」の合計で求めます。
なお、これら3つの金額は自治体によって変動し、住んでいる地域によって支払う国民健康保険料の額が変わってきます。
所得割
所得割とは、前年の所得に応じて計算される金額のことです。無職で前年の収入がない場合には、所得割は0円となります。
均等割
均等割とは、「世帯のうち何人が国民健康保険に加入しているか」によって決まる金額のことです。所得割と違い、前年の収入がなかったとしても均等割は必ず発生します。なお「世帯」には、同じ空間で生計を共にする人同士の集まりだけでなく、一人で暮らす単身者も含みますので注意が必要です。
平等割
平等割とは、国民健康保険に加入する全世帯が平等に負担する金額のことです。そのため、均等割と同様、無職で前年の年収がない人であっても平等割を支払う対象となります。
無職の人の保険料のシミュレーション
実際に、無職の人が支払うべき国民健康保険料はいくらになるのか、シミュレーションしてみましょう。
市区町村によって金額は若干異なりますが、ここでは石川県金沢市に在住のAさんを例に、算出していきます(令和3年度の保険料額をもとに算出)。
Aさん
住まい:石川県金沢市(1人暮らし)
年齢:28歳
職業:無職
前年(令和2年)の所得:0円
はじめに、「医療分」から計算していきます。医療分は「所得割+平等割+均等割」の式で算出できますが、Aさんは前年の所得が0円なので、所得割は「0円」として計算を進めます。
まず、金沢市のホームページによると、医療分の「均等割」の額が年間24,000円です。Aさんは1人暮らしで、世帯所得も0円のため、次のように均等割の7割減免措置を受けられます。
つまりAさんの「医療分の均等割」の額は、年間7,200円です。
次に、医療分の「平等割」を計算します。金沢市の平等割は、1世帯あたり21,480円です。こちらも7割の減免措置が適用されるため、次のように計算されます。
つまりAさんの「医療分の平等割」の額は、年間6,444円です。そして、ここまで求めた均等割、そして平等割を足すことで、Aさんが支払うべき医療分は年間13,644円と計算できます。具体的な計算式は以下の通りです。
では次に、「支援分」の計算に移ります。支援分に関しても、「所得割+平等割+均等割」の式にて算出が可能です。Aさんは前年の所得が0円なので、所得割を「0円」として計算を進めます。
金沢市のホームページによると、支援分の「均等割」の額が年間10,320円です。Aさんは1人暮らしで、世帯所得も0円のため、次のように均等割の7割減免措置を受けられます。
つまり、Aさんの「支援分の均等割」の額は、年間3,096円です。
次に、支援分の「平等割」を計算します。金沢市の平等割は、1世帯あたり7,080円です。そしてこちらも7割の減免措置が適用されるため、次のように計算できます。
つまり、Aさんの「支援分の平等割」の額は、年間2,124円です。そして、ここまで求めた均等割、そして平等割を足すと、Aさんが支払うべき支援分は年間「5,220円」と計算できます。具体的な計算式は以下の通りです。
最後に「介護分」の計算が残っていますが、Aさんは40歳未満のため介護分の支払いは不要です。そのため介護分は0円と計算します。
ここまでの計算結果をまとめると、Aさんが年間に支払う国民健康保険料の総額が算出できます。具体的には、次の通りです。
以上の結果から、Aさんの年間支払保険料が18,884円ということがわかりました。なお、国民健康保険料は10回に分けて支払うため、月額に直すと約1,800円の支払いが必要です。
国民健康保険料を滞納した時のリスク
ほかの公的医療保険に加入していない場合には、無職であっても国民健康保険に加入しなくてはいけません。支払いを滞納してしまうと、滞納が長引くごとに次のような公的手続きの対象となってしまいます。場合によっては「差押」のリスクもあるので、滞納は絶対に避けましょう。
- 保険証を返納させられ医療費が全額自己負担となる
- 保険給付の支払の一時差止
- 財産の差押
保険証を返納させられ医療費が全額自己負担となる
保険料を支払う納期限を1年以上経過してしまうと、保険証の返還を求められます。代わりに「日保険者資格証明書」が交付されますが、この場合、病院などで診療を受けた際の医療費が全額自己負担となってしまうのです。
なお、後日の申請により、支払った額の一部は請求できます。ただし、基本的には滞納している保険料と相殺されてしまうため、結局のところは全額自己負担となってしまうケースがほとんどです。
保険給付の支払の一時差止
滞納期間が1年6か月を超えると、保険給付が全額、または一時的に差止になります。具体的には、療養費や高額医療費、または出産一時金など、未納していなければ給付を受けられていたお金が手元にほとんど入ってこなくなるのです。
財産の差押
それでも滞納を続けた場合には、「差押予告」の通知が役所から届いたり、役所の職員から督促などの連絡が来たりするようになります。そして、それらにも応えない場合には「財産の差押処分」を受けるのです。例えば給与の差押、銀行口座の凍結、といった処分が待っています。
国民健康保険料が高すぎて払えない場合は減免制度を利用できる
国民健康保険料が高すぎて支払えない場合には、保険料を減らせる制度、いわゆる「減免制度」を利用できる場合があります。条件に当てはまれば、以下のような減免を受けることが可能です。
- 保険料の均等割軽減
- 非自発的失業者に係る保険料の軽減
保険料の均等割軽減
人によっては、保険料の「均等割」部分の軽減を受けられる可能性があります。
均等割とは「世帯のうち何人が国民健康保険に加入しているか」によって決まる金額です。無職であっても発生するものではありますが、住民税の申告さえ済ませておけば、軽減の申請に関しては特に自分で手続きをする必要はありません。
なお、軽減を受けられる場合には、前年の総所得金額によって7割減、5割減、2割減のいずれかの適用を受けられます。具体的には次の基準に照らし、それぞれの条件に当てはまる場合に減額の適用がなされる仕組みです。
軽減割合 | 判定基準 |
---|---|
7割軽減 | 総所得金額等が43万円+10万円×(給与所得者等(※1)の数-1)以下の世帯 |
5割軽減 | 総所得金額等が43万円+(28.5万円×被保険者数(※2))+ 10万円×(給与所得者等(※1)の数-1)以下の世帯 |
2割軽減 | 総所得金額等が43万円+(52万円×被保険者数(※2))+ 10万円×(給与所得者等(※1)の数-1)以下の世帯 |
(※1)給与所得者等:一定の給与所得者(給与収入55万円超)と公的年金所得者(公的年金等収入60万円超(65歳未満))、または125万円超(65歳以上)の所得者のこと
(※2)特定同一世帯所属者を含む。特定同一世帯所属者とは、後期高齢者医療制度の被保険者になったことにより、国民健康保険の資格を喪失した人のこと。引き続き国民健康保険の世帯主と同一世帯に属する人を指す
非自発的失業者に係る保険料の軽減
企業の倒産や企業都合による解雇などにより失業せざるを得なかった人に関しては、「非自発的失業者に係る保険料の軽減」の適用を受けられる可能性があります。
なお、申請には届出が必要です。届出を出さず、離職日から1年経ってしまうと保険料の軽減制度が適用されない場合もあるので、注意してください。
無職の人の保険料を安くする方法
ここからは、無職の人が国民健康保険料を安くする方法をご紹介します。次の方法のなかで、自身に当てはまるものがあれば利用を検討してみましょう。
- 家族の扶養に入る
- 任意継続被保険者制度を利用する
家族の扶養に入る
家族のなかに企業勤めの会社員や公務員がいる場合には、その扶養に入ることで健康保険料の支払いをせずに済む場合があります。ただし、誰でも扶養に入れるというわけではありません。
自身の年収が130万円未満であること、そして被保険者によって生計が維持されていること、といった条件を満たす必要があります。
任意継続被保険者制度
企業を退職して無職になった場合には、任意継続被保険者制度を利用できる可能性があります。任意継続被保険者制度とは、退職前に加入していた健康保険に最大2年間加入できる、という制度です。基本的には、前職で2か月以上被保険者の期間があれば適用を受けられます。
なお、任意継続被保険者制度を使うと健康保険料が安くなるケースもありますが、所得などによっては国民健康保険料のほうが安く済む場合もあります。そのため、まずは両者を計算しつつ、安く加入できるのはどちらかを考えてみてください。また退職後、無職期間が2年以上続いている場合には任意継続被保険者制度にそもそも加入できない点にも注意が必要です。
まとめ
無職であっても、国民健康保険への加入は必要です。ただし、保険料の減免制度が用意されていたり、場合によっては家族の扶養に入ったりできるなど、保険料を安くできる方法はいくつも存在します。無職で収入がない人にとって保険料は決して安くはありませんが、滞納を続けてしまうと差押のリスクもあります。まずは保険料の減額ができないかを検討しつつ、保険料を確実に納めていきましょう。
「無職 国民健康保険」によくある質問
国民健康保険とは?といった内容に関しましては「国民健康保険とは」で解説をさせていただいていますが、前年1月から12月の所得をもとに保険料が決まるという内容と無職で収入がなくても国民健康保険料の支払いが必要という内容は把握しておきましょう。
無職の人の保険料を安くする方法に関しましては、「無職の人の保険料を安くする方法」で解説をさせていただいておりますが、方法としては、家族の扶養に入る/任意継続被保険者制度を利用するの2つが存在します。詳しく知りたい方は是非ご確認ください。